M&Aについて

1.M&Aとは

ビジネス社会では一般用語になった感がありますが、M&AとはMerger & Acquisition(合併と買収)の略です。具体的には、企業の経営権が移動する株式の譲渡・取得(通常は買手が株式の過半数の取得)、企業同士の合併、事業(資産)の譲渡・取得などを指しますが、実態として経営権が取得できれば少数株式の譲渡・取得や出資などもM&Aと呼ばれます。事業譲渡による店舗一つの売買や、小さな家族経営の事業を知り合いに引き継いでもらう、等も立派なM&Aと言えますので、中堅・中小企業にとっても既にM&Aは身近な存在であり、その殆どは双方が合意の上で取引を実行する友好的なM&Aです。

これまで日本においては、売手、買手の双方にメリットがある友好的なM&Aであっても、“身売り”、“乗っ取り”等という誤解されたイメージで受け取られることが多々ありました。しかし、後継者難問題の解決や、企業の再生、再編等にM&Aが有効であることが徐々に認知され始め、そのイメージは前向きなものへ変わりつつあります。日本におけるM&Aの件数も増加してきており、今後の市場の拡大が期待されます。

中堅・中小企業に関連するM&Aは、目的別に分けると以下の様なケースがあります。

◆ 売却側

事業承継オーナー社長が引退の際に、後継者不在のため経営権を他企業に譲渡
事業が継続され、オーナーも創業者利益を得ることができる
組織再編会社の中心事業から外れたノンコアの事業を外部に売却
海外では一般的だが、日本では社内の抵抗に合うことも多い
ベンチャー企業
のEXIT
IPOでなく、会社の株式を他企業に売却し、経営陣、投資家共にEXITする
海外では多いが、今後日本でも増加すると思われる
再起業のための
EXIT
起業家タイプの経営者が、新たな事業の立上げのために既存事業を売却
今後、日本でも増加すると思われる
大手企業の
傘下入り
長期的には独力での生き残りは困難と判断し、オーナーは業績が悪化する前に事業を大手企業に売却し、その傘下に入る
財務悪化
による売却
破たんを避けるために、やむを得ず他企業の傘下に入る
業績悪化後の駈込みが多く、条件の交渉余地は限定される

◆ 買収側

規模の拡大同業を買収して規模を拡大し、市場での存在感、シェアを急速に高める
規模の拡大によるコストの低減。”時間を買う”
拠点の取得未進出地域の企業を拠点として買収する。一から始めるより、 事業の立ち上がりが早い(これも”時間を買う”)
新規分野進出他分野ノウハウやブランド、特許等、自社の独力では進出や開発が難しいものを持っている企業を買収
株価対策買収により売上、利益が増加すると、事業が成長しているとの印象を市場に与えるため、上場企業が株価対策としてM&Aを行う

2.M&Aのプロセス

M&Aは単純な物の売り買いのように、相手を見つけて値段が折合えば即実行、というわけにはいきません。完了に至るにはいくつもの段階を経る必要があり、一般的にはプロジェクトを開始してから、半年~1年間程度の期間が必要です。 弊社が取扱った過去の例の中には、相手探しから始めて半年以内に完了した件もありますが、それらはかなり順調に進んだケースと言えます。

例えば売却の場合、以下のような段階を経る必要があります。(カッコ内は順調に進んだ場合の標準的な月数です)

プロジェクトの開始、準備(1ヶ月)

  • 会社紹介の資料の作成と情報の整理
  • 買手候補のリストアップ

買手候補へのアプローチ、フォローアップ(2ヶ月)

  • リスト上の候補先へのコンタクト(手紙、電話、面談)
  • 守秘義務契約書の締結、基本情報の提供
  • その後のフォロー

絞り込み、条件交渉、基本合意書締結(1ヶ月)

  • 話を煮詰めるために、買手候補と数多くの面談、Q&A等
  • 買手側は、そのM&Aが自社の事業にフィットするかを慎重に検討。
    前向きな場合は社内の投資委員会等からの許可を取る準備
  • 株価を含めた基本的な条件を交渉
  • 条件が大筋合意に達したら基本合意書を締結

デューディリジェンス、契約交渉(1.5ヶ月)

  • デューディリジェンス(買収監査)を実施し、買手は事業、財務、法務、人事、総務等あらゆる面から対象会社に問題がないか精査する。売手はその準備、対応
  • 価格、支払方法、譲渡の形態、役職員の処遇等、合意すべき事項がいくつもあり、これらを交渉し、売買契約書に落とし込む

本契約、払い込み(0.5ヶ月)

  • 売買契約締結
  • 契約の実行条件が満たされた後、資金の払い込み

3.相手をいかに見つけるか

売却や買収の相手を見つけるのは、最初のハードルです。いい相手を見つける事ができるか否かにM&Aの成否がかかっていると言っても過言ではありません。ここも以下に売却のケースに関してご説明します。

中堅・中小企業のM&Aでこれまで多かったのが、知合いや取引先に会社を引き受けてもらう、という形です。お互いのことをよく理解している点ではいいのですが、交渉の対象となる母集団が既存の知合いに限られるため、選択肢の数に限界があります。また、既に人間関係がある先に自分の会社の引受けをお願いすることになるので、厳しい価格交渉をする訳にもいかず、価格に関しては妥協せざるを得なくなることも多いようです。

次に多いのが、税理士、経営コンサルタントや銀行等の、比較的身近な外部の関係者に相談するケースです。税理士や経営コンサルタントは、M&Aアドバイザリーに真剣に取り組んでいる一部の方を除いてM&Aが本業ではありませんから、当然ながらネットワークに限界があります。よって、こちらもそれほど交渉の対象者の母集団が増えることにはなりません。顧問先の売却が成立するとお客さんが減ることになるので、積極的に協力したくないと考える方もいらっしゃいます。地方銀行は業務としてM&Aをやっていますが、自行の取引先との縁組を優先する傾向があるので、交渉の対象者に偏りが生じる可能性があり、また、銀行に借入がある場合、売手としては会社売却の意思を知られるのは気持ちのいいものではありません。

できるだけ良い条件の相手を見つけるには、M&Aに特化したアドバイザーを使うことが最も有効です。M&Aアドバイザーはその道の専門家であるため、売手、買手候補を探すノウハウ、ネットワークを持っており、より広い母集団の中から対象先を見つけるため、身の回りで買手を探すよりも、良い条件の買手を探してくる可能性が高くなります。また独立系のM&A アドバイザーはその顧客とM&A以外には利害関係がないため、他のビジネスが影響したり、情報が漏洩したり、の心配もありません。

M&Aアドバイザーというのは、日本、特に地方の中堅・中小企業では馴染みがない存在ではありますが、欧米では大都市だけでなく地方都市にも多数存在し、中小企業のM&Aにもよく利用される身近な存在であります。今後、日本のM&A市場の成長に伴って、全国において中小企業に焦点をあてたM&Aアドバイザーが増えてくるものと考えられます。

4.会社の価値

会社を売買する(または合併する)際の事業価値を算定法には、いろいろな方式がありますが、理論的にこう計算しなければならない、という決まりがあるわけではありません。理屈は抜きにして、もし、売手が売ってもいい、買手も買ってもいい、と両者の間で感覚的に折り合った価格があったら、それがその事業の売買価格です。(ただ、あまりに一般的な価格と乖離があると税務的な問題が生じる可能性があります。)

通常は合意に至る過程において、お互いの根拠を提示して適正な価格について議論するわけですが、その際に参考指標としてよく使われるものが、株式市場における上場企業の株価です。

市場での株価は、売手及び買手の多数の参加者の思惑がギリギリのところで折り合ったものなので、客観性が高く、市場の評価を最も端的に表したものとされています。M&Aの対象会社が上場企業であれば、市場でのその株価が基本になり、それを経済環境その他の要因で加減することとなります。対象が未公開企業や事業部門の場合でも、上場している類似企業の市場での評価(例:利益の何倍に評価されているか)が価格算定の根拠としてもよく使われます。(ただ、例外的に、バブル期や流動性が極端に低い場合など、使いづらいケースもあります)また、直近に起こった同業のM&Aやファイナンスなどがあれば、それらの評価も同様にM&Aの価格算定に影響を与えます。

具体的に未公開企業や事業価値を評価する場合、最近では、利益の額を基準に価値を算定することが一般的になってきています。利益の種類も経常利益、営業利益、純利益などいろいろありますが、その中でもEBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation & Amortization)という指標が基準としてよく使われています。これは簡単に言うと、営業利益に償却(減価償却や営業権の償却)を加えた数字です。計算としては、このEBITDAをX倍したものに現預金の額をプラスして、借入の額をマイナスした額が企業(事業)価値となります。この倍率のXは株式市場の業界評価等を基にした業界ごとの大体の相場があり、買手売手の主観によってXを調整します。計算例としては、営業利益が8000万円、減価償却が2000万円、現預金が5000万円、借入が7000万円の会社の場合、EBITDAが1億円(8000万円と2000万円)となり、倍率を5倍で計算すると、この会社の株価は:1億円 X 5倍 + 5000万円 – 7000万円 = 4億8000万円、ということになります。

よくファイナンスの本に書いてあるのが、将来の予想キャッシュフローを割引いて企業価値を計算するというディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)ですが、元々が上場株を前提とした理論であり、①将来の業績予想、と②割引率、の二点を正確に計算するのが実質的に不可能である等の問題があるため、未公開の中堅中小企業を対象としたM&Aでは単体で使われることはなく、使われたとしても他の評価法と併用されています。

その他、伝統的な評価法である、バランスシートの資産と負債の差額である純資産の額を株価とする純資産法もありますが、主に不動産等の資産の評価が主体の事業、または利益が出ていない事業、非常に小規模の事業、等の評価で使われることがあります。また、この純資産法での評価と、前述のEBITDA等の利益ベースの評価を平均して価格を算定することもあれば、純資産に経常利益の2~3倍をのれん代として加えたものを事業価値とする、という計算の仕方もあります。その他、業界によっては、1顧客の価値はいくら、という相場があり、その1顧客の価値 X 顧客数、という方法で企業価値を計算するという慣行があることもありますが、最近では、上記の利益ベースの評価法が使われることが多くなってきています。

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